福島市議会議員選挙 立候補予定者への
ダイバーシティ(多様性)に関する公開質問(アンケート調査)の結果概要と分析
2015年7月3日 ダイバーシティふくしま
1.回収率
福島市選挙管理委員会より提供された立候補予定者説明会出席者名簿に基づき、立候補予定者47名全員にアンケートを送付。7月1日までに、27名から回答を得た。回収率は57.4%。このうち1名は立候補見送りのため、有効回答者数は26名。
ご多忙な中、アンケートにご回答下さった立候補予定者の皆様に、厚く御礼申し上げます。
2.性的マイノリティについて
【アンケート結果の特徴的な点】
・性同一性障害に関して「困難を早急に解決」が65%。それ以外の性的マイノリティについては46%。
・性的マイノリティに特化した「相談窓口・救済機関の設置」に約7割が賛成。
・個別施策について「わからない」と判断保留が目立つ。抱える困難が十分に知られていない。
【設問に対する回答から】
性的マイノリティが直面する困難について「非常によく知っていた」は0%、「ある程度は知っていた」は73%、「あまり知らなかった」は27%。
「性同一性障害の人びとが直面する困難を人権問題としてとらえて早急に解決する必要があると思いますか」という問いに対しては「早急に解決する必要がある」が計65%だった一方、「性同一性障害以外の性的マイノリティ(性同一性障害ではないトランスジェンダーや、同性愛、両性愛など)が直面する困難を人権問題としてとらえて早急に解決する必要があると思いますか?」という問いに対しては「早急に解決する必要がある」が計46%にとどまった(「人権問題ではあるものの、現時点では解決する必要がない」8%、「わからない」19%、「その他」27%)。
個別施策への賛否を問う設問では、「わからない」と判断を保留する回答が目立った。福島市において「(婚姻に準ずる)同性パートナーシップ制度などを導入する」は35%、「性的マイノリティに対する差別を禁止する条例を制定する」「同性愛・トランスジェンダー・性同一性障害などを含めた性の多様性に関する学校教育を充実させる」は各27%が「わからない」と回答した。
「性的マイノリティに対する差別や権利侵害に特化した相談窓口・救済機関等を設置する」に対しては69%が賛成を示し(「いいえ」0%、「わからない」19%、「その他」12%)、一定の理解が示されたが、「公的施設におけるユニバーサルトイレ(男女の性に関係なく誰でも利用可能なトイレ)の設置を推進する」に関しては否定的意見も多い(「はい」54%、「いいえ」31%、「わからない」15%)など、より踏み込んだ施策については立候補予定者により判断が分かれている。
【分析と課題】
多くの立候補予定者にとって、大まかな問題意識はあるものの、性的マイノリティの当事者が具体的にどのような困難や生きづらさを抱いているのかについては十分に理解されていない、という実態がうかがえる結果となった。自由記述欄にも「性的マイノリティが直面する困難を認識したことが無いので対応策を考えたことがない」「自分自身が理解できない問題なので、判断が難しい」といった回答が並んだ。
また、まずは性的マイノリティに関する周知や議論が必要という意見も多く、とりわけ性同一性障害以外の性的マイノリティが直面する困難については、今すぐに取り組むべき課題だと十分に認識されていない実情が明らかになった。
こうした認識の背景には、「13人に1人は性的マイノリティ」という統計データと、「自分の身の回りに、性的マイノリティであると公言している人がいない」という立候補予定者の実感との乖離があるのではないかと推察される(自由記述「マスコミ等での報道等で知るだけでそれ以上身近に存在がない」)。これは日本において多くの性的マイノリティが、差別・偏見を恐れるなどの理由から、周囲にカミングアウト(告白)できていない状況を反映している。性的マイノリティは「身近にいない」のではなく、「身近に必ずいる、誰にも言えずに生きづらさを抱えている」のだ、ということを広く伝えていくことが喫緊の課題であるといえる。
なお「相談窓口・救済機関等の設置」は69%が賛成(反対は0%)、「公文書における不必要な性別欄の削除/柔軟な対応」は58%、「ユニバーサルトイレの設置推進」は54%、「性の多様性に関する学校教育の充実」は50%が賛成と、いくつかの施策については半数以上が賛意を示す結果となった。これは日本および福島市において、性的マイノリティの問題がようやく政策課題として意識されるようになった結果だと考えられる。
だが、「相談窓口・救済機関等の設置」には賛成するものの、他の施策には反対したり、「わからない」と判断を保留したりする回答も少なくない。こうした判断の背景には、性的マイノリティの抱える困難が依然として「個人の問題」として捉えられがちで、地域や社会全体として取り組むべき課題だとは十分に認識されていないという実情があると考えられる。「公文書における不必要な性別欄の削除」や「ユニバーサルトイレの設置推進」といった施策は、当事者にとって目前の悩みを解消するだけでなく、「地域として、あなたたちを無視していませんよ」というメッセージになり、孤立感に悩む当事者を大いに勇気づけることにもつながるのだということを、ここで強調しておきたい。
3.民族的マイノリティについて
【アンケート結果の特徴的な点】
・ヘイト・スピーチを含む差別や困難「早急に解決」が73%。復興と関連付けるかは判断分かれる。
・「学校での多文化共生教育充実」は85%、「相談窓口・救済機関の設置」は69%が賛成。
・「差別禁止条例の制定」については判断保留が目立つ。
【設問に対する回答から】
民族的マイノリティが直面する困難について「非常によく知っていた」は8%、「ある程度は知っていた」は73%、「あまり知らなかった」は19%。
「民族マイノリティの人びとが直面する困難(インターネットやヘイト・スピーチを通じての差別や中傷を含む)を人権問題としてとらえて早急に解決する必要があると思いますか?」という問いに対して、「早急に解決する必要がある」との回答が計73%に上った(人権問題であり、早急に解決する必要がある69%、人権問題ではないが、早急に解決する必要がある4%)。
「個々の民族的マイノリティが抱える問題は、東日本大震災からの復興という文脈において考慮されるべき問題であると考えますか?」という問いについても、「早急に取り組む必要がある」が計69%となったが、復興という文脈の中に位置づけるべきか否かは賛否が拮抗した(「考慮されるべき問題であり、早急に取り組む必要がある」35%、「復興とは関係ないが、早急に取り組む必要がある」35%)。
個別施策への賛否を問う設問では、「市立学校における多文化共生に関する学校教育を充実させる」が85%と非常に高い賛成を集め、「民族的マイノリティに対する差別や権利侵害に特化した相談窓口・救済機関等を設置する」についても賛成が69%に上った。
一方、「民族的マイノリティに対する差別(ヘイトスピーチの規制を含む)を禁止する条例を制定する」に関しては「はい」38%、「いいえ」12%、「わからない」31%、「その他」19%と回答が分かれ、とりわけ「わからない」と判断を留保する回答が目立った。
【分析と課題】
性的マイノリティに対する認識と比較するならば、民族的マイノリティに対する人権問題は社会的に認識されているといえるかもしれない。
ただしいくつかの課題も浮き彫りとなった。メディアで取り上げられているヘイト・スピーチの問題や、政府・地方自治体が取り組んできた実績のある多文化共生教育に関しては高い理解が得られた一方で、復興との関連や条例の制定に関しては否定的な考えや、判断を留保する意見が多数見られた。
これらの回答の背景にある認識としては、日本人/外国人という二項対立的な思考が潜んでいる。すなわち、あくまでゲスト/他者としての外国人住民という認識に基づいており、私たちが共に生活している社会という想像力が欠如している。これはまた、多数の外国籍住民が日本人と結婚しており、多数のルーツを抱える人びとが多数派となっていく現実の認識と乖離したものでもある。また、グローバルな側面の競争的な部分や明るく語られるイメージについては肯定的なものの、そのイメージから後景化していく問題への認識は欠けているように思われる。
社会が多様であるとは、いわゆるマイノリティの問題に限定されるべきものではなく、私たち一人一人の生き方が尊重されるべきという認識と結びつくことによって地域社会の多様性が担保されるものとなる。つまり、誰もが抱えている自分のなかのマイノリティ性=個性というものを置き去りにして、「復興」=「普通」へと焦って回帰してしまっているのではないかと感じる。
4.男女共同参画社会の推進について
【アンケート結果の特徴的な点】
・女性の困難「早急に解決」が81%、固定観念の意識改革「積極的に施策」も65%に達する。
・個別施策「企業向けトップセミナー」賛成92%。ポジティブ・アクションは賛否分かれる。
・性的マイノリティ・民族的マイノリティのテーマに比べ、より踏み込んだ、具体的な意見が目立つ。
【設問に対する回答から】
「男女共同参画社会の推進」に関する動向について、「非常によく知っていた」は23%、「ある程度は知っていた」は69%、「あまり知らなかった」は8%。性的マイノリティ・民族的マイノリティのテーマに比べると、関心が大きいことが示されている。
「女性が直面する困難を人権問題としてとらえて早急に解決する必要があると思いますか?」という問いに対しては、「早急に解決する必要がある」との回答が計81%に上った(人権問題であり、早急に解決する必要がある58%、人権問題ではないが、早急に解決する必要がある23%)。
また「男性役割、女性役割」「男はこうあるべき、女はこうあるべき」といった固定観念や性別による役割分担意識が障壁になっているという考え方に対しても、「意識改革のための施策を積極的に実施するべきである」との回答が65%に達した。
個別施策に関しては、「企業などの意識改革を先導するためのトップセミナーを開催する」は92%、「男性向け啓発運動を活発化する」は77%が賛成を示した一方、「積極的差別是正措置(ポジティブ・アクション)を条例に盛り込む」は「はい」31%「いいえ」27%、「副市長に女性を登用する」は「はい」38%、「いいえ」19%と、賛否が分かれた。
自由記述欄においては「女性の貧困等を解消し、あらゆる分野における女性の参画がより一層進むような取り組みが必要」「結婚・出産・子育てを仕事と両立させることを、個人、そして家族だけの努力、問題ではなく、社会全体で受入れ、サポートできる体制を作り、実行できる事が、一番の推進になる」など、具体的な回答も目立った。男女共同参画社会基本法の存在に加え、有権者の関心が比較的高いテーマであることもあり、性的マイノリティ・民族的マイノリティのテーマに比べ、より立候補予定者としても踏み込んだ意思表明をしやすいテーマであったと考えられる。
【分析と課題】
男女共同参画社会の推進に関しては、男女共同参画社会基本法制定から16年を経ているためか、性的マイノリティ・民族的マイノリティのテーマに比べると、回答者の多くがよく知っていた。約半数が「女性が直面する困難は人権問題である」との認識をもっていた。
しかし、男女共同参画社会の実現のために有用である(第3次男女共同参画基本計画第1分野「クオータ制も含めた多様なポジティブ・アクション(PA)の検討」)とされるにPAついては、設問における具体例が市議会議員にクオータ制を導入するという強力なPAだったこともあってか、条例に盛り込むことに消極的、あるいは疑問視する回答も多かった。福島市における実効的なPAはどのような形か、市民のコンセンサスをどう得ていくかを模索しながら、PAの有用性を地道に示していく活動が必要だ。「副市長に女性を登用する」ことに対する質問に対し、「市長が女性でもよい」「男性市長を前提としている」という反論もあったが、現実には東京23区を含める813市区における首長の女性数は17名であることからも、女性(多様な性も含む)を意思決定の場に登用するための積極的な取り組みのひとつであるという意義を伝えていきたい。
また、男女別・男子優先出席簿が「隠れたカリキュラム」として男女の二分化と男性優位の価値観を内面化しやすいことを根拠として導入が進んできた男女混合名簿については、「男性、子どもにとっての男女共同参画」(第3次男女共同参画基本計画第3分野)を課題として「教育による男女共同参画の理解の促進」が具体的施策となっていることもあり、海外の状況や混合名簿の浸透について紹介し、理解を広げていくことが必要だ。
さらに、設問に対し、「男性が直面する困難と同義に捉えないのはなぜか?」といった疑問も投げかけられていることから、今後は男女共同参画社会の推進における男性問題にも配慮した活動についても検討する必要があろう。